九日目 ページ9
厨房に明かりが付いているのは見えたが、今日はこの人が当番だったか。彼女はいつも栄養剤だけで朝を済ます。食事がめんどくさい、と言っていた気がする。その代わり睡眠欲が異常なので、三代欲求が欠けているわけではないのだろう。
「パンですかあ？何パンにするんですかあ？」
「マーガリンにします。貴方は、いつものですか」
「えへへ、そうなんですよお、たまには固形のもの食べないといけないんですけどねえ」
「冷蔵庫のご自由には無かったんですね」
昨日、アハト君に食べられちゃったんですよお。
ああ、やっぱり彼だったか。前に私の作り置きのおかずも食べられてしまった。まあご自由にと言わんばかりの見た目だったので何も言わなかったが。それに共用の調味料を余分に買っているのは彼なので誰も文句は言わない。
「あっ、そうだあ、Aさん辞めちゃうって本当ですかあ？」
「ええ、今月末で」
「そっかあ、寂しくなりますねえ。私、Aさんと話すの楽しかったんですけどねえ」
「そうでしたか。私も、貴方から貰う栄養剤には助けてもらいました」
事実である。プライベートで遊ぶなんて事は無かったが、会うときは何かしら会話を交わしたし、食事を共にする事もあった。他人以上友達未満というやつだ。
「次は何の仕事するんですあ？」
「塾で講師を。母校からお誘いをいただきまして」
「塾ですかあ！Aさん教えるの上手ですもんねえ」
彼女の裏のないところが好ましい。だから付かず離れずの関係でいられたんだろう。
「お引越しの準備、手伝いますよお」
「ありがとうございます。その時はまたお声がけします」
他愛もない世間話をしていると、トースターに入れたパンが焼き上がる。いい感じに焼けたんじゃないか。マーガリンを冷蔵庫から取り出して、ヘラでパリパリの面に擦り付ける。熱いパンにマーガリンを滑らせるのは楽しい。子供みたいと言われそうなので誰にも言わないけど。
「私は部屋に戻りますねえ、じゃあ」
「ええ、それでは」
ふわあ、とあくびをしながら出ていった彼女を目で見送る。二度寝しない事を祈る。
ぱく、とかぶりついたパンはサクッという小気味良い音を立てた。溶けたマーガリンがじゅわ、と舌に触る。牛乳があればもっと良かったのに。
続く
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生茶(プロフ) - ゆるゆるなさん» ゆるゆるな様、作品をご覧いただきありがとうございます！不定期更新にはなりますが、読んでいただけたら幸いです。 (3月29日 0時) (
レス) id: cf05a2e5ca (このIDを非表示/違反報告)
ゆるゆるな - とても好きです！！これからの更新頑張ってください！ (3月28日 21時) (レス) id: cce9726ea8 (このIDを非表示/違反報告)
生茶(プロフ) - ゲリラさん» ゲリラ様、ご覧いただきありがとうございます！コメント、非常に励みになります。これからもどうかよろしくお願いします！ (3月28日 11時) (レス) id: cf05a2e5ca (このIDを非表示/違反報告)
ゲリラ - こんにちは‼️更新内容めちゃくちゃ良いです(^ - ^)これからも頑張ってください‼️ (3月28日 11時) (レス) @page4 id: 3562e297db (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：生茶 | 作成日時：2024年3月26日 22時
