もっと知りたいから ページ44
○改めて周りを見てみるとほとんど誰もおらず、一人また一人と図書室から出ていく生徒の姿があるだけだった。早く私も退室しなければ。焦る私は本を元の場所に返そうと足を踏み出す。
「借りていかれないんですか？」
するとその時、背中に掛けられた彼の声に思わず足を止めてしまった。どうやら私の意図を彼は察してそう訊ねてきたんだろう。私は唇をきゅっと引き結ぶ。
──本音を言うならば、借りたい。借りて、家で続きを読みたいと思っている。けれど、迷惑ではないかと。今日の図書室の担当者にはおそらくこれから閉館後の作業とかあるだろうし。だから今日は借りるのを諦めたと言うのに。彼がそんなことを言うものだから一度ついた決心が揺らいでしまったではないか。
「……いえ、早く退室した方がいいでしょうし、それに閉館時間に気付かなかった私が悪いのに、私の都合で図書委員の方の作業を増やしたくはないので」
そう言って振り返れば、彼は何故か目を丸くしていた。その瞳からはまるで意外だと言うような視線を感じる。
それは一体どういう反応なんだと怪訝に思っていると、すぐに彼は柔らかく微笑んだ。
「大丈夫ですよ。そんな遠慮はいりません。それが私達の仕事ですし、貸し出しの作業なんてすぐに終わりますから」
それにそういう人も普通にいますから。
ははっ、と笑みを浮かべる彼に今度は私が驚いた。まさかそんな言葉を返されるとは思っていなかった。しかもそれが図書委員の義務だからと嫌々言っている感じもなく、寧ろ喜んで承りますみたいに笑うものだから尚更。
果たしてそれが本音なんだろうか。心の何処かでそう思ってしまったけれども、私の意志を揺らがせるには充分だった。
「どうしますか？ お借りしていくのなら、私が手続きしますよ」
私は一度手元の本を見て、それからまた彼へと視線を戻す。本当なら彼とこうして二人きりでいることは望ましくないんだけど。
どうしても、本の誘惑には勝てなかった。
「……それじゃあ、お願い致します」
おずおずとそう答えれば、彼は僅かに目元を細め「では、こちらへ」私に背を向けると受付に向かって歩き出した。私はなるべく距離を空けながらその背中についていく。
目的地に着けば彼はその中へ、私はカウンターの上に本と学生証を置く。それを受け取った彼が早速貸し出しの作業に入った。
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抹茶ちよこ(プロフ) - かぼさん、お久し振りでございます。いつもいの一番にコメントして下さりありがとうございます✨よくある題材で設定が設定なので今までの作品に比べ糖度は低いですが、私らしく物語を紡いでいきたいと思っております。最後までお付き合い下されば幸いでございます。 (1月18日 8時) (
レス) id: 68848dd40a (このIDを非表示/違反報告)
かぼ(プロフ) - 新作おめでとうございます✨初めてお見かけする雰囲気のお話に、今から続きが待ち遠しさと楽しみでいっぱいです(*´ ‐ `*)気温の変動が激しい時期ですので体調崩されないようお気をつけてお過ごしくださいませ。 (1月16日 22時) (レス) @page8 id: 36a6e4e509 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：抹茶ちよこ | 作成日時：2024年1月16日 20時
