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それは、いつもと変わらないAの大好きな笑顔だった。
『チーノ、さん……』
ポツリと呟くと、チーノはニコッと歯を見せて笑った。
それから、未だ暴れている男を組み敷きながら、彼は子供達に言った。
「もう大丈夫や！外に国王軍が来てる、皆で逃げるで。はよ出ろ！」
「チーノ！！」
「オルヴァー、よお頑張ったな。帰るぞ！」
チーノの言葉に、オルヴァーは大きく頷いた。
子供達はすぐに立ち上がり、織の外へ飛び出していく。
「A姉ちゃん！」
オルヴァーに名前を呼ばれてハッとなったAも、慌てて立ち上がる。
しかし……何とかチーノを押し退けた男が、Aの足首を掴んだ。
『あっ！』
ダンッと体を床に叩きつけるように倒れたA。
鈍い痛みに、顔を歪ませる。
男はギリギリとAの足首に爪を食い込ませていた。
息を荒げながら、ギラギラとした目でAを見上げる。
「女はなぁ……高く売れるんだよ……！」
『っひ……！』
Aが小さく悲鳴を上げると、チーノが男の手を思いきり踏みつけた。
聞くに堪えない悲鳴を上げて、男は悶絶しのたうち回る。
Aの足首から男の手が離れた瞬間、チーノは彼女を掬い上げるように引っ張り上げた。
「触んな」
聞いた事のないチーノの低い声。
たった一言、そう言い放ってチーノはAを連れて廊下から出た。
すぐにガチャリと鍵を閉めて、チーノはAへ振り返った。
「遅なってスマンかった。間に合ってよかったわ。ケガないか？」
『はい、大丈夫です』
「そっか。とりあえず、こっから出るで」
チーノを先頭に、暗い道を歩き出そうとした瞬間。
フッと明かりが消えた。
「は？！嘘やろ？！」
焦ったチーノの声と、カチッカチッという音が聞こえる。
どうやら彼は、ライターの火を灯していたようだ。
再び訪れた暗闇に、子供達はざわつき始める。
そんな中、Aだけは凛として落ち着いた声でチーノに話しかけた。
『チーノさん、近くの燭台を拾ってもらえませんか？』
「へ？」
『お願いします。今、手が使えないので……』
「あ、おう。分かった」
そう言うと、チーノは近くに落ちていたボロボロの燭台を手に取った。
それから、ゆっくりとAに手渡した。
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作者名：双葉ちほ | 作成日時：2021年7月3日 22時
