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Aは、縛られた手を何とか合わせ指を絡ませる。
そして、強く願った。
『お願いします……どうか……』
目を閉じて、何度も言葉を重ねる。
非力な自分では、この男たちを押し退けることはできない。
もう、自分のこの小さな奇跡にすがるしかなかった。
無謀かもしれない。
それでも、ただ救いたい一心で願い続ける。
しかし男の目には、突然Aが目の前で命乞いを始めたように映る。
そんなAに、男は神経を逆なでされたようなイラつきを覚えた。
「おい、だから無駄だって言ってんだろ！」
男がグイッとAの胸ぐらを掴んで怒鳴りつけた。
その大声に驚いて、数人の子供達が目を覚ました。
目をこすりながら体を起こした子供達は、男の姿を見るなりビクッと体を震わせた。
何人かは、部屋の隅まで後ずさりして逃げてしまっている。
それでも、Aの“お願い”は続く。
今までは、とても小さな頼み事だったけど、こんなにも漠然とした祈りは初めてだ。
正直、上手くいく自信はなかったけど止めるわけにもいかなかった。
『(私には、守りたいものがあるから)』
“お願い”を続けるAに、ついに男がキレた。
チッと荒々しく舌打ちをすると、Aに向かって手を上げた。
「てめぇ、いい加減に……！」
「A姉ちゃん！！」
オルヴァーが叫んだ、その瞬間……
―――ガシャンッ！！
牢の外にあった燭台が、何の前触れもなく全て床に落ちた。
大きな音を立てて、突然失われた光。
真っ暗闇に包まれ、子供達は悲鳴を上げた。
『え……？』
思わず目を開けると、Aの口からも短く声が出た。
混乱はしているのは子供達だけではなく、目の前の男も同じだった。
「おい、何だよ！何も見えねえじゃねえ、か―――」
しかし次の瞬間、ドンッと鈍い音が響いた。
それと同時に、男の気配が目の前から消える。
今度は、Aが目を白黒させていると……
―――シュボッ
不意に、明かりが灯った。
思わず目を細めたが、Aの瞳はすぐに大きく見開かれることになる。
微かな光の中に、綺麗な水色の前髪と見慣れたグルグル眼鏡が見えたのだ。
そして、待ち望んでいたあの声が聞こえてきた。
「A、大丈夫か？」
『っ！！』
声の主は、深く被っていた帽子をグッと上げるとAへ笑いかけた。
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作者名：双葉ちほ | 作成日時：2021年7月3日 22時
