第16話：守りたいもの ページ6
*
―――ギィィ……
重く鉄を引く音で、Aは目を覚ました。
いつの間にか眠ってしまっていた様で、すぐにフルフルと頭を振った。
ちょっぴりぼやける瞳で音の方へ顔を向けると、鉄格子の扉が開いていた。
するとそこには、長身の男が２人立っていた。
1人は帽子を深く被っていてよく見えないが、もう1人の男には見覚えがあった。
『貴方、路地の……』
「よお、お嬢ちゃん」
ニヤッと笑った男は、路地でA達を襲った張本人だった。
キッとAが睨むも、男は全く意に介さずズカズカと入り込んできた。
Aのすぐ近くまで来ると、男はチラッと子供達に目をやった。
「呑気なこったなぁ。これから売られるってのによぉ」
『え……？』
売る？この子たちを……？
男の物騒な言葉に、Aはサーッと血の気が引いた。
箱入り娘のAでも察しが付く。
恐らく彼らは、人さらいの闇商人だ。
小さな子供達や若い娘が狙われ、大きな船に乗せられていくと聞く。
もう、戻れないかもしれない。
そう思うと、声が震えた。
『だ、だめ……』
「あ？」
『お願い、止めて……』
消え入るような声でAが言うと、男はグイッと彼女の髪を掴んだ。
『痛っ……！』
「お嬢ちゃんよお、気持ちは分かるが、そりゃ無理なお願いだぜ」
今までニヤついていた男の顔から急に色が落ちる。
ジッとAの目を見て、ただ淡々と言葉を繋げる。
その声色からは、男の感情は何も読み取れない。
不気味で、Aは背筋が冷たくなった。
「ここに来た時点で、お前らの運は尽きてんだ。諦めな」
『っ……』
確かに、そうかもしれない。
状況だけ考えたら、絶望的だ。
誰にも連絡が取れず、この場に頼れる者もいない。
今までならば、自分の隣に誰かが居てくれた。
けれど、今は誰もいない。
彼の言う通り、諦めるしかないのも事実だ。
だけど……
『(私は、諦めないわ)』
助けは来る。待っていれば、絶対に誰かが助けに来てくれる。
私には、信頼できる人がいる。
チーノやラウラ、自分の周りにはきっと助けにきてくれるであろう人がちゃんといるから。
けれど、彼らを待っているだけでは、ここにいる全員を助けられない。
いつ来るか分からない助けを待っていれば、誰かが犠牲になってしまう。
あるいは、全員まとめて……
それはダメだ。
絶対に、私がこの子達を助けるんだ！！
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作者名：双葉ちほ | 作成日時：2021年7月3日 22時
