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「ここでミルエイ国の生き残りを見たって話しを聞いてね。なんでも、人攫いにあった女が燭台に火を灯したらしいじゃないか。それも、壊れている燭台に」
「……」
「どうやって明かりを点けたんだろうなあ」
「偶然なのでは？」
「それしては不思議だよなあ。マッチもないんだぜ？奇跡でも起きたとしか言えないだろう」
「随分、おおざっぱな結論付けですね」
「おとぎ話だっていうのかい？まあ、そう聞こえなくもないが……ミルエイ国の第三皇女なら、できない話じゃないだろう」
オスマンが小さく溜め息をつくと、男はグッと体を乗り出させた。
「なあ、ここにいるんだろう？」
「不謹慎なのではないですか？ミルエイ国は先の戦争で壊滅したばかりです。あまり口にするものではないかと」
「あの戦争で、王族は誰１人として捕らえられてはいない。亡骸も見つかってはいない。生きててもおかしくないとは思わないか。あり得ない仮説ではないと思うが」
そう言うと、男はチーノに向き直った。
初めて目線が合った事に、チーノは少し身を強張らせた。
「君もそう思うよな、チーノ隊長」
「……私が発言することではないかと」
「構わないさ、君の意見が聞きたい。この国に、不思議な力を使う女性がいると聞いたことはないか。噂程度でも構わない」
「……そのような話は聞いていませんね」
「国軍兵は城下町のパトロールも行っているんだろう？君が見かけたことはないか」
「いえ……」
「珍しい力だからな。ちょっとした騒ぎになってもおかしくなのだが……」
矢継ぎ早に質問する男を、オスマンは咳払いで止めた。
「彼女の能力は素晴らしいものでしたが、心酔するのは程々にしておいた方が良いですよ」
「皇女は生きてる。知っているか、あの戦争はな―――」
「少々、お話が過ぎますよ」
初めてオスマンが話を遮った。
淡々とした声色であったが、表情は相変わらず微笑んだまま。
スッと書類とペンと取り出した。
「あくまで可能性の域を出ない話ですが、私も覚えておきましょう。ところで、ウチで人攫いの騒ぎがあった事について、随分詳しくご承知のようでしたが、どちらでお聞きになったのですか？」
今度はオスマンがニコリと圧をかける。
慌てて口を覆った外交官は白々しく話を変え、ようやく仕事の話へと戻っていった。
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作者名：双葉ちほ | 作成日時：2021年7月3日 22時
