第21話：疑惑 ページ23
*
この世に魔法があるらしい。
昔、そんな話を耳にした。
恐らく、チーノが施設に来てから間もない頃。
遠巻きに他の子供達が騒いでいるのを聞いて、チーノは彼らに駆け寄った。
「なあ、その話聞かせてくれや！俺、チーノ！」
新参者の彼を見て子供達はキョトンとしていたが、すぐに手を招き輪の中に引き入れた。
子供心に、チャンスだと思ったのだろう。
この施設に来てから、チーノは1人で孤独だった。
正直、話の内容にさして興味はなかったが、他の子供達と仲良くなるキッカケにでもなればいいと思っていた。
「本当に魔法が使える奴がいるんだって！」
「本の中の話でしょ？」
「魔法使いのお姫様がいるらしいよ！」
にわかには信じられない話だったが、彼らは大盛り上がりだった。
「(魔法なんて、あるわけないやろ)」
笑顔でずっと頷きながらも、チーノは腹の中でそんなことを思っていた。
有り得ない話だと、ずっと思っていた。
外交先でミルエイ国を訪れるまでは。
ミルエイ国第三皇女にのみ与えられた特別な力。
限られた人間しか知らない事実だった。
彼女を一目見て、初めてチーノもその事実を知る事となった。
「(ホンマに……ホンマにおった！！)」
大きく心を揺さぶられながら、チーノは目を輝かせた。
可憐で華のように笑う彼女をプリンセスだと知ったのは、外交から帰っている最中だった。
名前も知らず、会話を交わすことも無かったが、彼女の姿はずっと頭から離れなかった。
彼女の力は、化学では到底解明できない不思議な力。
まさに魔法だと、形容されていた。
不可能を可能にする力。
無から錬金する奇跡の力。
彼女の力を欲する人間は、決して少なくなかった。
しかし、ミルエイ国は戦争で崩壊。
彼女は世界から失われてしまった。
誰もが、そう思っていたが―――
「いるんだろう、ここに」
「……」
外交室で不気味に笑う同盟国の外交官。
ソファに深く腰掛け、長い足を組んでそう切り出した。
目の前に座っていたオスマンは、苦笑いを浮かべるばかり。
「本日は、交易の話の筈では？」
「雑談にくらい付き合ってくれよ。仕事の話だけをする男はダサいだろう」
以前からこの男は少々厄介で、オスマンは手を焼いていた。
これには、付き添いのチーノも肩をすくめそうになった。
「……私としては、全く心当たりのないお話しですね。なぜそのように？」
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作者名：双葉ちほ | 作成日時：2021年7月3日 22時
