第19話：約束 ページ16
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2人の間に、柔らかい風が吹き抜ける。
しかし、空気は冷たく最悪なままだ。
『っ……』
苦しいくらいに胸が締め付けられて、額からは嫌な汗が流れる。
明らかに動揺しているAを、チーノはただじっと見ていた。
どうにか誤魔化せないかと、Aは必死に頭を回転させる。
「A、お前が第３皇女の侍女ってのは、嘘やんな？」
『っそ、そんなことは……』
「もう諦めろって。国王様のこと、お父さんって言ったやん。お前は皇女の侍女やない。Aが、ミルエイ国の第３皇女とちゃうんか」
1つ1つを確かめるように聞くチーノ。
その声は優しく、諭す様だ。
決して怒りは含まれておらず、尋問するわけでもない。
彼は、ただ真実を確かめたいだけなのだ。
もう、これ以上この人に嘘はつけない。
きっと、全部バレてしまっているんだ。
正直にちゃんと、謝ろう。
Aはチーノへ向き直り、真っ直ぐ彼を見つめた。
『チーノさんの仰る通り、私は侍女ではありません。私は……ミルエイ国第３皇女、A・ミルエイです』
そう言うと、Aは深く頭を下げた。
『嘘をついていて、申し訳ありませんでした』
2人の間に、沈黙が流れる。
特にAには、途方もない時間のように感じた。
何も言わないチーノが怖くて、ギュッと目を瞑った。
暫くして、先に沈黙を破ったのはチーノだった。
彼は、クツクツ笑いながらAに声を掛けた。
「A、顔上げてや」
恐る恐る顔を上げ、チーノを見ると……丁度、タバコの火を消したところの様で、彼はポイッと吸殻を捨てた。
それから、手摺に片肘をつくと頬杖をつきながらAに問いかけた。
「なんで嘘ついてたん？」
『……城を出る時に、侍女に言われたんです。逃げた先では身分を隠して、迎えを待つようにと』
「へえ……いつお迎え来るん？」
チーノの質問に、Aは目を逸らし黙り込んでしまった。
その様子を見て、チーノは「なるほど」と小さく呟いた。
「別に、いつ来るかって決まってないんや」
『……』
「あれか？真っ先に逃げてこの国に来たって感じか？」
『明確にこの国を目指していたわけではないんです。とにかく逃げて、偶然あの森でチーノさん達に助けてもらったという感じで……』
「ふうん……。でも、待ってるだけでよかったんやろ？Aが自分で探そうとしなくてもええやん」
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作者名：双葉ちほ | 作成日時：2021年7月3日 22時
