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『っいや……！！』
思わずギュッとチーノの服を掴むと、彼はびっくりした顔でAを見つめた。
「えっと……A？」
困惑した顔で彼女を見つめていると、コネシマから急かす様な声が飛んでくる。
「おい、チーノ行くぞ！」
国王軍としては、闇商人達をこのまま見逃すわけにはいかない。
今すぐ突入して、すぐにでも捕らえに行かなくては。
そのためには、ナビゲートとしてチーノを連れて行きたいところではあるが……
小さく震える彼女が、どうにも彼から離れようとしない。
普段の彼女からは、あまり想像できない姿だ。
しかし、チーノだって国を守る軍の一員。
さらには1つの隊を率いる立場の人間だ。
今、何を優先するべきかなど、分かりきっている。
なんとか彼女を落ち着かせようと口を開いた瞬間……
『行かないで……1人に、しないで……』
「っ……！」
肩を震わせ、涙声でそう言った彼女を、ついにチーノは離すことができなかった。
「コネさん、すいません。俺……」
「分かった。ヤバくなったら来てくれ！お前の部隊、借りるからな！」
そう言って、コネシマは片手を上げて行ってしまった。
コネシマの掛け声と共に、国王軍は続々と地下へ突入して行った。
その姿を、チーノはAを抱いたまま見送った。
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ようやく落ち着いたAが辺りを見渡すと、すっかり日は暮れ、空には月が輝いていた。
そんな中、Aは近くの木の根元で座り込み、ぼんやりと空を眺めていた。
「はい、どうぞ。温まるわよ」
『あ……ありがとうございます』
医療班の隊服を着た女性が、Aにコップを手渡す。
ニコッと微笑んだ彼女は、医療班の看護婦長だ。
コネシマ率いる特攻部隊と共に、たった1人の医療隊員として駆けつけてくれたのだそうだ。
看護婦長の彼女がAに手渡したカップには、温かいココアが淹れてあった。
甘く優しい香りにつられて、Aはすぐに口をつけた。
「見た所、特に異常はなさそうだけど、念のため城へ戻ったら、しんぺい神さんに診てもらった方がいいわ」
『はい。そうさせていただきます』
「それにしても……本当に何もなくてよかったわ。女の子が誘拐されたって聞いたから……」
彼女が言わんとしていることは分かった。
実際、Aの身に何が起きてもおかしくない状況だった。
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作者名：双葉ちほ | 作成日時：2021年7月3日 22時
